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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)2549号の1 判決 1998年10月22日

大阪市西区安治川二丁目一番四〇号

原告

株式会社ウチノ

右代表者代表取締役

内野新治

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

辻川正人

東風龍明

片桐浩二

久世勝之

岩坪哲

右補佐人弁理士

中谷武嗣

大阪市淀川区十三本町三丁目五番二号

被告

勝山電機株式会社

右代表者代表取締役

勝山正

右訴訟代理人弁護士

鷹取重信

福田正

草尾光一

宮本圭子

右補佐人弁理士

古川泰通

前田厚司

主文

一  被告は、別紙イ号物件説明書記載の物件を製造、販売してはならない。

二  被告は、前項の物件を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金三四六万三五〇〇円及びこれに対する平成三年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決の第三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  主文第一項ないし第四項と同旨

二  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係(いずれも争いがない)

1  原告の権利

(一) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という)を有している。

特許番号 第一四八二〇〇〇号

発明の名称 電磁誘導加熱装置

出願日 昭和五七年一〇月二八日(特願昭五七-一九〇三二二号)

出願公告日 昭和六三年六月二七日(特公昭六三-三一九〇七号)

登録日 平成元年二月二七日

特許請求の範囲

「1 交流電源に直流変換器を介して接続した直流回路に、大電力を引出すためのインバータ回路を構成する素子としてトランジスタを多数並列に接続し、この並列の回路を誘導コイルに連結すると共に、バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入したことを特徴とする電磁誘導加熱装置。」(末尾添付の特許公報〔甲二。以下「本件特許公報」という〕の該当欄参照)

(二) 本件発明の特許請求の範囲の記載は、次の構成要件に分説することができる。

(イ)ⅰ 交流電源に直流交換器を介して接続した直流回路に、

ⅱ 大電力を引出すためのインバータ回路を構成する素子としてトランジスタを多数並列に接続し、

(ロ)ⅰ この並列の回路を誘導コイルに連結すると共に、

ⅱ バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入した

(ハ) ことを特徴とする電磁誘導加熱装置。

(三) 本件発明は、次の効果を奏する。

「サイリスターをインバータ素子とした高周波変換装置のように転流回路を必要としないので、転流エネルギーが不要な分だけ効率的になり、大電力用の場合は特に全体がコンパクトになり、低価格に提供できる効果がある。」(本件特許公報4欄18行~23行。なお、4欄22行に「低格価」とあるのは「低価格」の誤記と認められる)

2  被告の行為

被告は、別紙イ号物件説明書(別図1、別図2を含む)記載の物件(以下「イ号物件」という)を製造、販売しているところ、その電気回路には富士パワーモジュール2DI100D-050(以下「富士モジュール」という)が使用されている。

二  原告の請求及び被告の抗弁

原告は、本件発明にいう「トランジスター」は一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されるとの解釈を前提に、イ号物件に使用されている富士モジュールは一素子(物理的に一個)のダーリントントランジスターを二個直列接続した回路構造であるからイ号物件は本件発明の技術的範囲に属し、その製造販売は本件特許権を侵害するものであると主張して、特許法一〇〇条一項に基づきイ号物件の製造販売の差止めを、同条二項に基づきイ号物件の廃棄を求めるとともに、民法七〇九条、特許法一〇二条二項(平成一〇年法律第五一号による改正前のもの。以下同じ)に基づき損害の賠償及び損害額に対する平成三年一二月七日(原告の損害賠償請求期間におけるイ号物件の最終販売日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。

これに対し、被告は、本件発明にいう「トランジスター」は一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されず、複数の素子を並列接続したトランジスターユニットをも含むとの解釈を前提に、イ号物件に使用されている富士モジュールは二個のダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続した回路構造であるからイ号物件が本件発明の技術的範囲に属することは認める、とするものの、抗弁として、

<1>  被告は、昭和五五年一〇月に別紙「先使用に係る物件(A物件)説明書」記載の高周波誘導加熱装置(以下「A物件」という)にかかる発明を完成し、その頃からA物件の製造販売を開始し、昭和五六年九月には訴外米沢産業株式会社に販売したところ、A物件は、多数(二四個)のトランジスターを並列に接続したトランジスターユニットを使用しているから本件発明の技術的範囲に属するものであり、したがって、被告はA物件にかかる発明すなわち本件発明につき特許法七九条所定のいわゆる先使用による通常実施権(以下「先使用権」という)を有する、

<2>  A物件にかかる発明は、訴外内田重泰(以下「内田」という)ら被告の従業員及び被告代表者の職務発明に該当するから、被告はA物件にかかる発明すなわち本件発明につき特許法三五条所定の通常実施権を有する

と主張する。

原告は、本件発明にいう「トランジスター」についての前記解釈を前提に、二四個の小トランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続した構成のA物件は本件発明の技術的範囲に属しないから、被告は本件発明について先使用権も職務発明による通常実施権も有しないなどと主張する。

三  争点

1  イ号物件及びA物件が本件発明の技術的範囲に属するか否かの点に関係して、本件発明にいう「トランジスター」は、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されるか。

2  A物件にかかる発明について、被告は先使用権又は職務発明による通常実施権が成立するためのその他の要件を充足しているか。

3  被告が原告に対して損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(イ号物件及びA物件が本件発明の技術的範囲に属するか否かの点に関係して、本件発明にいう「トランジスター」は、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されるか)について

【原告の主張】

本件発明にいう「トランジスター」は、以下のとおり、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されるから、一素子(物理的に一個)のダーリントントランジスターを二個直列接続した回路構造の富士モジュールを使用したイ号物件は本件発明の技術的範囲に属し、一方、二四個の小トランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続した構成のA物件は本件発明の技術的範囲に属しないので、被告は本件発明について先使用権も職務発明による通常実施権も有しないものであり、したがって、被告によるイ号物件の製造販売は本件特許権を侵害するものである。

1 本件発明にいう「トランジスター」は、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定され、複数の素子を並列接続したトランジスターユニットを含まない。

(一) まず、特許請求の範囲において「バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入した」と記載されていること、本件明細書の発明の詳細な説明の欄に、第2図に示される実施例の作用効果として、「トランジスターの特性にかかわりなく、コンデンサー配分によって電力を配分することができ、」(本件特許公報4欄5行~7行。なお、同欄6行に「かわりなく」とあるのは、「かかわりなく」の誤記と認められる)と記載されていることから、右「トランジスター」は一素子(物理的に一個)であることが明らかである。

すなわち、複数のトランジスターが並列に接続されている回路では、各トランジスターの諸特性(増幅率、飽和電圧等)に相違、バラツキがあることにより、あるトランジスターに大電流(不平衡電流)が流れることがあり、該トランジスターを破壊するだけでなく、他のトランジスターも破壊するおそれがあるところ、これを防止するために、本件発明ではコンデンサーをバランサーとして機能させているのであるが、コンデンサーをバランサーとして機能させるためには、物理的なトランジスター一個一個にコンデンサーを直列接続しなければならず、複数の小トランジスターを並列接続したトランジスターユニットに一個のコンデンサーを直列接続しても、このコンデンサーはバランサーとして機能しない。このようにコンデンサーをバランサーとして使用しない場合には、トランジスターの特性、バラツキに対処するため、トランジスターの許容限度いっぱいの電流は流せず、ディレーティング(低減)使用をしなければならないが、本件発明では、物理的なトランジスター一個一個にコンデンサーを直列接続し、コンデンサーをバランサーとして機能させているから、トランジスターのディレーティング使用をしなくてもすみ、トランジスターの許容限度いっぱいの電流を流すことができ、その結果、同じ電流を流す場合でもトランジスターの個数を少なくすることができ、前記のように「大電力用の場合は特に全体がコンパクトになり、低価格に提供できる効果がある。」(本件特許公報4欄21行~23行)のである。

(二) 被告は、ディレーティング使用の回避という点については、本件明細書に本件発明の課題として記載されておらず、ディレーティング使用の語さえ使用されていない旨主張するが、特許発明の技術的範囲の解釈は当業者の周知の技術的事項を前提としてされなければならないのであって、トランジスターの特性のバラツキによる不平衡電流を回避するためのディレーティング使用は、当業者にとって周知の知見であり、当業者であれば、本件明細書における前記「トランジスターの特性にかかわりなく、コンデンサー配分によって電力を配分することができ、」との記載により、右(一)記載の本件発明の技術内容を把握することができるのである。本件発明は、確かにトランジスターのディレーティング使用の回避を直接の目的、課題とするものではないが、トランジスターに抵抗等のバランサーを挿入する従来技術を当然の前提とした、換言すれば、ディレーティング使用を回避することを当然の前提とした発明である。

電磁誘導加熱装置としては、従来、インバータ素子にサイリスターを使用する装置があったが、これは転流付帯装置を必要とするため、不必要なほど大型で高価であった。インバータ素子にトランジスターを使用する構成は、大電力を制御する大容量のトランジスターがなかったため、トランジスターを並列接続する必要があった(ダイレクトパラレル接続)。その場合、トランジスターの諸特性を均一に保つことは困難であるため不平衡電流(電流アンバランス)が生じ、あるトランジスターに大電流が流れると当該トランジスターだけでなく、他のトランジスターも破壊する可能性があるので、これを回避する方法として、まず、<1>各トランジスターを最大定格で使用せず、ディレーティング使用をする方法があるが、ディレーティング使用は効率が悪いため、<2>本件明細書の第4図の従来例のように抵抗を各トランジスターに直列接続してバランサー(各トランジスターを流れる電流のバランスをとるもの)として使用する方法がある(「従って小電力のトランジスタ素子を用いて大電力の制御を可能にしようとすれば、現在の技術水準では第4図に示す如く多数のトランジスターと抵抗とからなる素子を並列に設けたエミッターフロワーによる抵抗配分が考えられる。」〔本件特許公報2欄9行~14行〕)。しかし、この抵抗をバランサーとして使用する方法も、一つのトランジスター素子のオフ能力の故障が系全体に波及して全素子を破壊することになり、大電力誘導加熱には実用的でなかったから、結局、サイリスターをインバータ素子とする電磁誘導加熱装置が採用されていた(「仮りにその一つのトランジスター素子のオフ能力に故障が起きたとすると、他の並列素子に短絡電流が流れ、さらに系全体に波及して全素子を破壊することになるから、大電力誘導加熱には実用的ではなく、従って、この種装置には冒頭記載のサイリスターをインバータ素子とする大型のものが実施されている。」〔同欄14行~21行〕)。バランサーに抵抗を使用した方法、特に大電力誘導加熱(多数のトランジスターの並列接続が必要)における右の問題点を解決したのが本件発明であり、その要点は、バランサーにコンデンサーを使用したこと(及びインバータ素子としてトランジスターを用いたこと)である(「本発明の主なる目的は、大電力高周波変換装置におけるインバータ素子としてトランジスターを用い且つその電力バランサーとしてコンデンサーを用いることにより、転流回路の使用を不必要とし、結果として、電磁誘導加熱装置をコンパクトに構成すると共に、低価格に提供できることを可能にしたものである。」〔同1欄26行~2欄3行。なお、2欄2行に「低格価」とあるのは「低価格」の誤記と認められる〕)。すなわち、本件発明は、ダイレクトパラレル接続におけるディレーティング使用をしなければならないという問題点を解決した技術段階、つまりバランサーを各トランジスターにそれぞれ直列接続する方式の技術であり、そのうちでも従来技術の抵抗をバランサーとする方式の問題点を、抵抗に代えてコンデンサーをバランサーとして使用することにより、更に解決した技術段階の発明であるから、トランジスターのディレーティング使用をしない、する必要のない構成を前提としているものである。このことが、特許請求の範囲において「バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入した」と記載されているのである。

被告は、本件発明の本質的技術的課題は、一つのトランジスター素子のオフ能力に故障が起きた場合に他の並列素子に短絡電流が流れ更に系全体を破壊してしまうことを防止することであり、この課題を解決するためにそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入した点が本件発明の本質であって、この発明の本質からすれば本件発明のトランジスターが一素子であるか否かは関係がない旨主張するが、かかる主張は、技術的課題の記載及び本件発明の一つの作用効果から本件発明の技術的範囲を決定しようとするものであって、当を得ない。特許発明の技術的範囲は、いうまでもなく、特許請求の範囲の記載に基づき、更には、右記載が一義的でない場合は、発明の詳細な説明の欄の記載、周知技術等を参酌して決定されるものである。

(三) 本件発明の構成が物理的なトランジスター一個一個にコンデンサーを直列接続する構成であることは、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の他の記載からも裏付けられる。

すなわち、「本発明は上記の点に鑑みインバータ素子として一素子当り小容量のトランジスターを多数並列状に配置すると共に、これら各トランジスターをそれぞれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続して、本願の所期の目的を達成せしめたものである。」(本件特許公報2欄22行~27行)と記載されているように、「それぞれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続」するのは「これら各トランジスター」であり、「これら各トランジスター」とは「一素子当り小容量のトランジスター」であり、そして、「一素子当り小容量のトランジスター」の「一素子」であるトランジスターとは、物理的なトランジスター一個を意味するのであり、複数の小トランジスターを並列接続したトランジスターユニットを意味しない。被告は、本件発明の出願当時において、小容量のトランジスターを用いて大容量のインバータ回路を構成しようとすれば、インバータ回路の数が膨大になり、配線が複雑になり、実質的には実施が不可能となる旨主張するが、被告の技術レベルに基づく主張であって、事実に反する。

また、「前記の高周波変換装置は直流回路14、15間に形成した並列回路16、17にそれぞれ2個づつのトランジスター1a、2a、1b、2bを介設し、前記各並列回路における両トランジスター間からそれぞれ分岐した出力回路3a、3bをそれぞれコンデンサー4a、4bを介して誘導コイル5の両端に接続したものである。」(本件特許公報3欄4行~10行)との記載における「それぞれ2個づつのトランジスター1a、2a、1b、2b」とはそれぞれ物理的なトランジスター一個を意味するから、「それぞれ2個づつの」という表現になるのである。本件明細書の第1図、第2図に示されるトランジスターは、いずれも物理的に一個のトランジスターを意味する記号が記載されており、トランジスターユニットを示す記載はない。

そもそも、電気・電子分野では「一素子」のトランジスターとは、該トランジスターの容量、特性等の計測可能な最小単位を意味する用語として使用されており、「一素子」のトランジスターの結線、配線等の内部の一部分に、仮にトランジスターと同様の機能を有する部分があったとしても、その部分をもって「一素子」のトランジスターとはいわない。

(四) 被告は、原告が出願当初の明細書(乙一七)の特許請求の範囲における「一素子当り小容量の」トランジスターとの記載を補正により削除したことを根拠に、本件発明にいうトランジスターを原告のいう一素子(特性等を計測可能な最小単位)に限定して解釈することは許されない旨主張するが、右の補正は、「一素子当り小容量」といっても、どの程度をもって「小容量」というのか必ずしも明確でないことから、「特許請求の範囲に記載の加熱装置は本願発明を正確に特定していない。」(乙一八)との拒絶理由通知に対してなされたものであるし、特許請求の範囲の記載は右のように補正したものの、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の「本発明は上記の点に鑑みインバータ素子として一素子当り小容量のトランジスターを多数並列状に配置すると共に、これら各トランジスターをそれぞれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続して、本願の所期の目的を達成せしめたものである。」(本件特許公報2欄22行~27行)との記載はそのまま維持されているのであり、そもそも、出願当初の明細書の発明の詳細な説明の欄で開示されていない限り、出願当初の明細書の特許請求の範囲で特定した技術的範囲を、出願公開後の補正によって拡大することはできないのであるから、右補正によっても、本件発明にいう「トランジスター」がトランジスターユニットまで含むようになることはありえない。

2 イ号物件に使用されている富士モジュールは、一素子(物理的に一個)のダーリントントランジスターを二個直列接続した回路構造であり、イ号物件は、一素子のトランジスターにコンデンサーを直列接続したものであるから、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属する。

(一) 富士モジュールの回路A及び回路B(被告援用の参考図参照)は、それぞれ「部品又は装置を一つの機能体としてみた場合、その機能体を構成する単位」(乙一六)を意味する一「素子」であり、内部のA1・A2、B1・B2は、一素子たるトランジスターとはいえない。

すなわち、富士モジュールの内部は、その等価回路図(甲一五の図C3)によれば、A1及びA2(B1及びB2)のほか、抵抗及びダイオード等からなる一つの機能体であり、この回路A(回路B)に一つのトランジスターの各端子であるベース端子B1(B2)、コレクタ端子C1(回路BのC2は、A回路のエミッタ端子E1と共用)、エミッタ端子E1(E2)があるから、富士モジュールの回路A、回路Bは、それぞれ一素子たるトランジスターであり、富士モジュールは、一素子(物理的に一個)のダーリントントランジスターを二個直列接続した構成である。

(二) 被告は、富士モジュールは「物理的に二個のダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニット」を二個直列接続した回路構造である旨主張するが、被告のいう右トランジスターユニットこそが「一素子」のダーリントントランジスターなのであり、被告の主張は、「一素子」のトランジスターの内部構成にすぎないものを一素子のトランジスターと主張するものにすぎない。

前記1(三)末段記載のとおり、そもそも電気・電子分野では「一素子」のトランジスターとは、該トランジスターの容量、特性等の計測可能な最小単位を意味する用語として使用されており、「一素子」のトランジスターの結線、配線等の内部の一部分に、仮にトランジスターと同様の機能を有する部分があったとしても、その部分をもって「一素子」のトランジスターとはいわない。「富士パワーデバイス」と題するカタログ(甲一五)においても、原告の主張する意味での「一素子」のトランジスターの特性値が記載されている。

被告援用の「JIS用語辞典 Ⅲ 電気編」における「素子」についての「部品又は装置を一つの機能体としてみた場合、その機能体を構成する単位」との定義(乙一六)も、前記のとおり富士モジュールの回路A、回路Bがそれぞれベース・コレクタ・エミッタの三端子を有しており(内部構成一つ一つに対して端子があるのではない)、トランジスターとして機能するものであるから、原告の主張を裏付けるものである。

同じく「JIS用語辞典 Ⅲ 電気編」における「集積回路」についての「二つ又はそれ以上の回路素子のすべてが基板上又は基板内に集積されている回路であり、設計から製造、試験、運用に至るまで各段階で一つの単位として取扱うもの」との定義(乙二一)も、原告の主張を裏付けるものである。右の定義は、もともとは独立し、一素子とされていたトランジスター、抵抗等が、複数集積されることにより「一つの単位」、いわば「一素子」として取り扱われるものを集積回路と定義しているからである。ダーリントントランジスターも、もともとは個別独立の複数素子のトランジスターを結線した、すなわちダーリントン接続されていた回路が、一つの半導体チップ内に同時に作り込まれることにより「一素子」としてのダーリントントランジスターとなったのである。イ号物件の富士モジュールでいえば、回路A及び回路Bの二素子のトランジスターは、それぞれ、もともとは抵抗、ダイオード、トランジスター等の独立の素子であったものを結晶内抵抗あるいは蒸着配線により結線し、「一つの単位」に集積し、「一素子」としてのトランジスターとしたものである。

3 被告が昭和五六年九月に米沢産業株式会社に販売したというA物件が別紙「先使用に係る物件(A物件)説明書」記載のとおりの構成であることは認めるが(但し、その製造販売時期は知らない)、二四個の小トランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続した構成であり、本件発明の構成要件(イ)ⅱ及び(ロ)ⅱを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しない。

(一) A物件は、複数(二四個)のトランジスターを並列接続して一つのトランジスターユニット(201a、201b・・・)を形成し、これにコンデンサーユニット(204a、204b・・・)を直列接続した構成であり、そのトランジスターユニットは、本件発明にいう「トランジスター」のように一素子(物理的に一個)のトランジスターではないから、A物件は、本件発明の構成要件(イ)ⅱを充足しない。

(二) また、A物件の各コンデンサー(ユニット)は、本件発明(更には本件発明の技術分野)で使用されているところの「バランサー」ではないから、A物件は、構成要件(ロ)ⅱを充足しない。

すなわち、本件発明にいう「バランサー」とは、前記1(二)のようにトランジスターを並列接続した場合に、その諸特性のバラツキによる不平衡電流を回避する(各トランジスターを流れる電流のバランスをとる)ものであり、バランサーを使用せずに不平衡電流を回避するためにはトランジスターのディレーティング使用をする必要がある。A物件は、各トランジスターユニットにコンデンサーが接続されてはいるが、被告も認めるとおり、各トランジスターユニットに対してはバランサーとしての機能を有しても、各トランジスターユニット内の小トランジスターの不平衡電流を回避するには何ら機能せず、各小トランジスターはすべてディレーティング使用をされているのである。前記1(二)記載の技術段階でいえば、バランサーを挿入しないダイレクトパラレル接続の段階の技術である。そして、ディレーティング使用をすることは、バランサーを使用しないことと同義であるから、A物件のコンデンサーは本件発明にいう「バランサー」ではない。トランジスターユニット間の電流バランスをとっても、該ユニット内の小トランジスター間の電流バランスはとれないから、すべての小トランジスターはディレーティング使用をしなければならず、本件発明の「大電力用の場合には特に全体がコンパクトになり、低価格に提供できる」という効果を奏しえないのである。

【被告の主張】

本件発明にいう「トランジスター」は、以下のとおり、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されず、複数の素子を並列接続したトランジスターユニットを含むから、二個のダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続した富士モジュールを使用したイ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するが、多数(二四個)のトランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続したA物件も本件発明の技術的範囲に属するものであり、したがって、被告は、A物件にかかる発明すなわち本件発明について先使用権及び職務発明による通常実施権を有するので、被告によるイ号物件の製造販売は本件特許権を侵害するものではない。

1 本件発明にいう「トランジスター」は、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されず、複数の素子を並列接続したトランジスターユニットを含むものである。

(一) 本件発明の技術的課題は、第一に、「大電力高周波変換装置におけるインバータ素子としてトランジスターを用い且つその電力バランサーとしてコンデンサーを用いることにより、転流回路の使用を不必要とし、結果として、電磁誘導加熱装置をコンパクトに構成すると共に、低価格に提供できることを可能に」すること(本件特許公報1欄26行~2欄3行)、第二に、「小電力のトランジスタ素子を用いて大電力の制御を可能に」すること(同欄9行~11行)、第三に、「その一つのトランジスター素子のオフ能力に故障が起きたとすると、他の並列素子に短絡電流が流れ、さらに系全体に波及して全素子を破壊する」のを防止すること(同欄14行~17行)である。本件発明の構成要件のうち、構成要件(イ)ⅰは電磁誘導加熱装置が採りうる必然的な回路構成であり、構成要件(イ)ⅱ及び(ロ)ⅰは、本件明細書の図面第4図に示される本件発明の出願時点における技術水準の構成であって、これらの構成により、「転流回路の使用を不必要とし、結果として、電磁誘導加熱装置をコンパクトに構成すると共に、低価格に提供できることを可能に」するという第一の技術的課題と、「小電力のトランジスタ素子を用いて大電力の制御を可能に」するという第二の技術的課題が達成されている。しかし、この回路構成では、「その一つのトランジスター素子のオフ能力に故障が起きたとすると、他の並列素子に短絡電流が流れ、さらに系全体に波及して全素子を破壊する」という問題点を有しており、これを防止することが第三の、本件発明の本質的技術的課題となっているのであり、その解決手段として、本件発明は構成要件(ロ)ⅱの構成を採用したのであるから、この「バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入した」という構成要件が本件発明の本質となっていて、この発明の本質的部分から、本件発明の効果のうちの「仮りに所定のトランジスター1aが何等かの原因でオフ能力を失しなっても、次の信号によって2a系列のトランジスターがオンすると、コンデンサー4aによって連続的な短絡電流は遮断され、トランジスター2aの破壊のみで全体系列への影響を防止でき、一アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせない。」(本件特許公報4欄8行~14行)という効果が生じるのであって(但し、右課題が解決されるのは、コンデンサーのバランサーとしての作用によるものではない)、トンジスターを一素子としたか否かは関係がない。本件発明におけるコンデンサーは、誘導コイルの両側に対称に配置され、誘導コイルの両側からの電流を対称にして誘導コイルに安定した電力を供給するという作用を奏するとともに、トランジスターの特性にかかわりなくコンデンサー「配分によって電力を配分すること、一アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせないこと等の多様な作用を奏するが、そのうち最も重要なのは、本件発明の本質にかかわる一アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせない作用である。

(二) 本件発明にいう「トランジスター」に関して、特許請求の範囲には、「大電力を引出すためのインバータ回路を構成する素子としてトランジスタを多数並列に接続し、」と記載されており、インバータ回路を構成する素子であればよいところ、素子とは、「部品又は装置を一つの機能体としてみた場合、その機能体を構成する単位。」(乙一六)とされているから、本件発明にいう「トランジスター」は、インバータ回路(機能体)を構成する単位であり、その形態は問わないことになる。

そして、トランジスターの形態は、その製造可能性、入手容易性、経済性、安全性等を考慮して選択するのが設計上の通例であり、時代の推移によっても変化するものであるから、物理的に一個のトランジスターであろうと、物理的に一個のトランジスターを複数並列に接続したトランジスターユニットであろうと、ダーリントントランジスターであろうと、いずれも本件発明にいうインバータ回路を構成する単位(素子)としてのトランジスターであり、いかなるトランジスターの形態をとるかは、設計者が種々の情勢を考慮して決定する問題であり、前記(一)の本件発明の本質に関係しない。本件発明にいうトランジスターがどのような形態をとったとしても、同一の作用効果を奏し、その相違の程度も単なる設計変更又は構造上若しくは形状上の微差にとどまるのである。

(三) 原告は、本件発明にいう「トランジスター」は、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定され、複数の素子を並列接続したトランジスターユニットを含まないと主張するが、以下のとおり、その根拠とするところはいずれも失当である。

(1) 本件発明の特許請求の範囲には「インバータ回路を構成する素子としてトランジスタを多数並列に接続し、」と記載されているが、その「トランジスター」自体が原告の主張するような一素子(物理的に一個)のトランジスターでなければならないとは明記されていないし、発明の詳細な説明の欄においても「トランジスター」の明確な定義や意識的な限定がなされていない。特許請求の範囲の記載における用語は、特許請求の範囲に明記されているか、発明の詳細な説明に明確に定義されている場合を除き限定的に解釈すべきでないし、特許請求の範囲中に記載のないものは、記載の省略されていることが何人にも明白である場合を除き、その記載があるものとして技術的範囲を定めることはできない。更に、特許出願人は、その発明について可能な限り最大限の保護を求めていると考えるのが自然かつ合理的であるから、出願人が意識してその発明の技術的範囲を限定しているというためには、明細書その他の出願書類において限定している旨が明らかにされていなければならない。

したがって、本件発明にいう「トランジスター」を一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定的に解釈するのは失当である。

(2) 原告は、本件明細書の発明の詳細な説明の欄中の「トランジスターの特性にかかわりなく、コンデンサー配分によって電力を配分することができ、」との記載を根拠に、本件発明はディレーティング使用をしなくてもすむという効果があるとし、それ故本件発明にいう「トランジスター」は一素子(物理的に一個)のトランジスターでなければならない旨主張するが、原告の主張するディレーティング使用をしなくてもすむというような効果は、本件明細書に記載されておらず、一つの実施例が奏する特別の効果にすぎないから、本件発明の特許請求の範囲の記載を一つの実施例に限定して解釈することはできない。

(3) 原告は、本件発明はディレーティング使用を回避することを当然の前提とした発明であると主張する。

そうであるならば、ディレーティング使用を回避するということが本件発明の解決しようとする課題として本件明細書に明記されていなければならないはずである。しかし、本件明細書にはトランジスターのディレーティング使用を回避するとか、トランジスターの許容電流いっぱいまで電流を流すといった課題は記載されておらず、ディレーティング使用の語さえ使用されていない。このような明細書に記載されていない事項に基づいて発明の技術的範囲を定めてはならないのは当然である。

本件発明にいう「バランサーとしてのコンデンサー」は、前記(一)のとおり、誘導コイルの両側に対称に配置され、誘導コイルの両側からの電流を対称にして誘導コイルに安定した電力を供給するという作用を奏するとともに、トランジスターの特性にかかわりなくコンデンサー配分によって電力を配分すること、一アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせないこと等の多様な作用を奏するものであって、必ずしも原告がいうような電流分担を均等にすることのみを目的とするもの(以下「電流バランサー」という)ではない。

原告は、本件発明にいう「バランサー」について、並列接続したトランジスターのディレーティング使用を回避するための電流バランサーであると解釈するようであるが、そのような電流バランサーは本件明細書には一切記載されておらず、本件明細書の記載を無視するものである。本件明細書には、「電力バランサーとしてコンデンサーを用いることにより、」(本件特許公報1欄28行、29行)、「これら各トランジスターをそれぞれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続して、」(同2欄24行~26行)、「このようにパルスベース信号が対称的に与えられると、直流電気はトランジスターをインバータ素子とし且つコンデンサー4a、4bを電力バランサーとして交流電気に変換され誘導コイル5に印加される。殊に高周波の場合、比較的小容量のコンデンサーで電力を通過させることができ、該コンデンサー4a、4bはその充、放電の繰返しによって安定した電力を誘導コイル5に印加する。」(同3欄14行~22行)というように、「電力バランサー」という語のみが使用されており、この「電力バランサー」としてのコンデンサーは、右のように「その充、放電の繰返しによって安定した電力を誘導コイル5に印加する」ものであると明確に定義されているのであり、すなわち本件発明のコンデンサーとは、電力バランサーのことであって、誘導加熱コイル5の両側に対称に配置されることにより誘導加熱コイル5に対して対称的に安定した電力を供給する作用を有するものなのである。

また、仮に本件発明にいうバランサーが電流バランサーであるとしても、その電流バランサーを使用することは、不平衡電流を回避することであって、トランジスターのディレーティング使用をしないことを意味するわけではない。電流バランサーを使用することにより、ディレーティング使用をする必要がなくなり、定格電流いっぱいまで電流を流せるかもしれないが、ディレーティング使用をしたまま定格電流以下で電流を流してもよいのである。ディレーティング使用をするか、定格電流いっぱいまで電流を流すかは、誘導加熱装置の安全性や被加工物の状態によって決定されるものである。ディレーティング使用をするかしないかは、本件発明の本質からみても、本件発明とは関係がないのである。

要するに、本件発明は、ディレーティング使用をする必要のない構成ではなく、ディレーティング使用をしてもしなくてもよい構成、すなわちディレーティング使用とは関係のない構成であるから、ディレーティング使用を回避することを当然の前提とした発明であることを理由に、本件発明のトランジスターは一素子(物理的に一個)のトランジスターであるとする原告の主張は、失当である。

(4) 本件明細書の発明の詳細な説明中の原告援用の「本発明は上記の点に鑑みインバータ素子として一素子当り小容量のトランジスターを多数並列状に配置すると共に、これら各トランジスターをそれぞれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続して、本願の所期の目的を達成せしめたものである。」(本件特許公報2欄22行~27行)との記載における「インバータ素子として一素子当り小容量のトランジスターを多数並列状に配置する」との記載は、「小電力のトランジスタ素子を用いて大電力の制御を可能に」する(同欄9行~11行)ためには、当然ながらそのトランジスターは一素子当たり小容量でよいことを述べているにすぎず、一つのインバータ回路を構成する四つの単位のそれぞれを物理的に一個のトランジスターとすることを述べているのではない。仮に一つのインバータ回路を構成する四つの単位のそれぞれが物理的に一素子のトランジスターであるとすれば、テレビやラジオに利用される小容量のトランジスターが多数安価に入手できた本件発明の出願当時において、そのような小容量のトランジスターを用いて大容量のインバータ回路を構成しようとすれば、インバータ回路の数が膨大になり、配線が複雑になり、実質的には実施が不可能となる。

しかも、原告は、その出願当初の明細書(乙一七)では、特許請求の範囲を「インバータ素子として一素子当り小容量のトランジスターを多数並列状に配置すると共に、これら各トランジスターをそれぞれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続し、大電力を引出すようにしたことを特徴とする電磁誘導加熱装置。」としていたのを、昭和六二年一〇月一五日付で「特許請求の範囲に記載の加熱装置は本願発明を正確に特定していない。」との記載不備に関する拒絶理由通知(乙一八)を受け、同年一二月一日付手続補正書(乙一九)により、右特許請求の範囲の記載のうち「一素子当り小容量の」という限定を削除して現在の特許請求の範囲としたうえで特許を受けたのである。

また、補正により特許請求の範囲を変更した場合には、たとえ変更前の事項に相当する記載が発明の詳細な説明の欄中に残存してしまうことがあっても、特許請求の範囲自体は補正後の内容のものに変更されたものとして把握しなければならない。

したがって、原告は、トランジスターが「一素子」でないもの、「小容量」でないものについても特許を受ける意思があったといえるのであり、この意思が反映されて特許を受けたのであるから、特許を受けた後になって、発明の詳細な説明の欄における前記記載を根拠に、本件発明におけるインバータ素子としてのトランジスターについて、物理的に一個であるとか、原告のいう一素子(特性等を計測可能な最小単位)であるというように限定的に解釈することは許されない。

(5) 原告は、発明の詳細な説明における右記載のほか、「それぞれ2個づつのトランジスター1a、2a、1b、2b」との記載、第1図、第2図に示されるトランジスターはいずれも物理的に一個のトランジスターを意味する記号が記載されていることを指摘するが、一般に電子回路の原理を説明する場合や電子機器の回路を表示する場合には、各電子部品は単純化して表示するのであるから、本件明細書において「一素子」「二個」というように数量的に呼称され、図面に一個の記号で表示されているからといって、それが物理的に一個であるとするのは、当業者の技術常識から外れるものである。しかも、右記載、図面は、一実施例に関するものであって、発明思想を実際上どのように具体化するかを示すための例示的な説明にすぎないから、実施例にない態様のものを意識的に除外しているとはいえない。

2 二個のダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続した富士モジュールを使用したイ号物件は、本件発明の技術的範囲に属する。

(一) イ号物件に使用している富士モジュールは、別紙「参考図」のとおり、並列接続した二つのダーリントントラジスターA1、A2からなるトランジスターユニットAと、並列接続した二つのダーリントントランジスターB1、B2からなるトランジスターユニットBとを直列接続して同一パッケージ内に収容したものであるところ、ダーリントントランジスターA1、A2は、第1図に示す基板P1上に独立して形成され離れて配置されているチップ<1><2>に形成されており、ダーリントントランジスターB1、B2は、同じく基板P2上に独立して形成され離れて配置されているチップ<3><4>に形成されているから、ダーリントントラジスターA1、A2、B1、B2はそれぞれ物理的に別個のものであり、したがって、富士モジュールは、物理的に二個のダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニットを二個直列接続した回路構造ではあるが、ダーリントントランジスターユニットA(B)は、それを構成する各ダーリントントランジスターA1、A2(B1、B2)が同時に駆動されるものであり、インバータ回路を構成するトランジスターとして機能するから、本件発明にいうトランジスターと等価であり、したがって、イ号物件は、本件発明の構成要件すべてを充足する。

なお、右「参考図」第2図の(イ)は富士モジュールの内部の実回路図、(ロ)はカタログや富士モジュールそのものの側面に表示されている第一等価回路図、(ハ)は第二等価回路図、(ニ)は第三等価回路図であり、(イ)の実回路図の並列接続を省略すれば(ロ)の第一等価回路図となり、更にダーリントン接続を省略すれば(ハ)の第二等価回路図となり、また、(イ)の実回路図のダーリントン接続を省略すれば(ニ)の第三等価回路図となり、更に並列接続を省略すれば(ハ)の第二等価回路図となるのであって、これらの回路はすべて互いに等価である。

(二) 原告は、富士モジュールは、一素子(物理的に一個)のダーリントントランジスターを二個直列接続した構成であり、ダーリントントランジスターA1、A2、B1、B2は一素子のトランジスターの内部構成にすぎない旨主張するが、A物件は、後記3のとおり二四個のトランジスターを並列接続したものであるところ、インバータ回路において一素子のトランジスターとして機能し、各トランジスターの端子が結線されて全体としての端子に集約されているうえ、全体としての特性も予め計測可能であるにもかかわらず、原告は、このA物件のトランジスターユニットは一素子でないとするものであって、他方でイ号物件の富士モジュールは一素子であるとする原告の解釈は、全体的に集約した端子を外観的に有するか否か、全体的な特性が予め分かっているか否かによって、一素子であるか否かを決めようとするもので、当を得ない矛盾した解釈である。

(三) なお、被告があえてイ号物件が本件発明の技術的範囲に属することを認めるのは、本件発明にいうトランジスターはインバータ回路を構成する一つのトランジスターとしての効果を奏すればよいのであって、その使用形態を問わないとの立場に立つからであるが、もし、原告があくまで本件発明にいうトランジスターは一素子(物理的に一個)であると主張するならば、被告は、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属しないと主張せざるをえない。イ号物件は、トランジスターとして並列接続した二つのダーリントントランジスターを用いたものであり、それは原告のいうような一素子(物理的に一個)ではないからである。

3 被告は、本件発明の出願前である昭和五六年九月にA物件を米沢産業株式会社に販売したところ、A物件は、本件発明にいう「トランジスター」として多数(二四個)のトランジスターを並列接続したトランジスターユニットを用いたものであるから、本件発明の構成要件すべてを充足し、その技術的範囲に属する。

(一) A物件のトランジスターユニットは、それを構成する各トランジスターが同時に駆動されるものであり、全体として一つのトランジスターの特性(測定も可能)を有するように設計され、かつ、全体として一つのトランジスターの端子を有するように組み立てられ、インバータ回路を構成する一つの単位として機能するから、本件発明の「トランジスター」と等価である。

また、A物件のコンデンサーユニットは、それぞれのインバータ回路の出力回路に直列に挿入されており、誘導コイルに安定した電力を供給するという作用を奏するだけでなく、トランジスターユニットの特性にかかわりなくコンデンサー配分によって電力を配分すること、トランジスターユニット間(系列間)での一アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせないこと等の作用を奏するのであるから、本件発明のコンデンサーと等価である。

(二) 本件発明にいう「バランサーとしてのコンデンサー」を使用するということは、前記1(三)(3)のとおり誘導コイルに安定した電力を供給するという作用を奏するとともに、トランジスターの特性にかかわりなくコンデンサー配分によって電力を配分すること、一アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせないこと等の多様な作用を奏するようにすることであり、その一つの結果として不平衡電流が回避されるとしても、そのことが直ちにディレーティング使用をしないことを意味するわけではない。

A物件のトランジスターユニットの内部では、原告のいうような電流バランサーは使用されておらず、小トランジスター間ではディレーティング使用をしなければならない。しかし、それはトランジスターユニット内部の問題であり、小トランジスター間でディレーティング使用をするときの特性がユニット全体としての特性なのである。そして、このトランジスターユニットの特性は、本件発明のコンデンサーの一つの作用により、ユニット間(系列間)ではバランスされるのである。しかも、トランジスターユニット内でのディレーティング使用を回避しようとすれば、従来の抵抗による電流バランサーを各小トランジスターに接続すればよいのである。そうすれば、トランジスターユニット間(系列間)では本件発明のコンデンサーによってバランスがとれ、トランジスターユニット内では従来の抵抗によるバランサーによってバランスがとれるから、すべての小トランジスターはディレーティング使用をする必要がなくなる。

したがって、本件発明にいう「バランサーとしてのコンデンサー」の多くの作用のうちの不平衡電流の回避という作用のみが、トランジスターユニットを構成する小トランジスター間において働かないということのみをもって、A物件のコンデンサーは本件発明にいう「バランサーとしてのコンデンサー」ではないとする原告の主張は明らかに失当である。

(三) トランジスターの個数や接続状態等は時代の推移によって変動するものであり、それがどのような形態をとろうともインバータ回路を構成する一つの単位であることに違いはないのであり、二つのダーリントントランジスターを並列に接続した富士モジュールもそうである。技術の進歩により、従前の複数のダーリントントランジスターを一つの基板上にプリントできるようになったため、被告は、富士モジュールをイ号物件に使用し、トランジスターの形態(並列個数等)を変更したものにすぎないから、イ号物件は、A物件と何ら相違はなく、A物件についての先使用権及び職務発明による通常実施権の効力が及ぶものである。

二  争点2(A物件にかかる発明について、被告は先使用権又は職務発明による通常実施権が成立するためのその他の要件を充足しているか)について

【被告の主張】

1 被告は、本件発明の出願前にその技術的範囲に属するA物件にかかる発明を完成し、A物件を製造、販売していたから、A物件にかかる発明すなわち本件発明につき先使用権を有する。

(一) 被告は、昭和五五年一〇月に本件発明の技術的範囲に属するA物件にかかる発明を完成した被告従業員内田らからの報告により、A物件にかかる発明を知得し、そして、その頃からA物件の製造販売を始め、昭和五六年九月には米沢産業株式会社に販売して、現在に至るまでA物件を製造、販売しているから、被告は、A物件にかかる発明、すなわち本件発明につき先使用権を有する。

(二) 原告は、被告は特許法七九条所定の「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して」という要件を欠くと主張する。

しかし、同条は、旧特許法(大正一〇年法)三七条が「特許出願の際現に善意に」としていたために、先使用者がたまたま他人の出願又は発明の事実を知った場合に先使用権が否定されてしまうという不当な結果が生ずることを避けるために規定されたものであり、右旧法の「善意に」に該当する典型的な場合を例示したにすぎず、知得経路を厳格に限定する趣旨ではない。また、先使用権制度は、先願主義による不都合、すなわち資本、労力等を投下して開発し又は公正な方法で知得した発明を実施・準備している者が、他人の出願によってそれを無益に帰せしめられることを是正し、先願者と実施者との公平を図る制度である。

したがって、先使用権成立の有無については、発明の知得経路が二系列である場合に限定せず、広く自己が発明したか否か又は公正な方法で知得したか否か、あるいは出願人との関係で不公正とならないか否かによって判断されるべきである。意匠権・実用新案権について、知得経路が二系列ではなく、一系列である場合に先使用権を肯定した裁判例もある(札幌高裁昭和四二年一二月二六日判決・下民集一八巻一一・一二号一一八七頁〔乙二二参照〕、大阪地裁昭和五二年三月一一日判決・判タ三五三号三〇一頁〔乙二三参照〕)。

そして、A物件にかかる発明すなわち本件発明は、被告の従業員である内田らが職務発明として発明し、被告に開示したものであり、また、被告が昭和五五年から製造、販売したことにより公知となったにもかかわらず、昭和五七年に至って特許出願されたものであって、被告の知得経路は公正なものであり、出願人との関係でも何ら不公正な点はないから、被告には先使用権が認められるべきである。

2 本件発明の技術的範囲に属するA物件にかかる発明は、被告の従業員である内田らが完成した職務発明であるから、被告は、A物件にかかる発明、すなわち本件発明につき通常実施権を有する。

(一) A物件にかかる発明の発明者の一人である内田は、昭和四七年に被告に入社し、昭和五二年頃いったん被告を退社したが、昭和五五年一月、被告に再入社した。

その頃、被告は、主力製品であるサイリスター整流器の小型軽量化の研究をしており、内田は、その研究スタッフの中心として、被告代表者や訴外奥野繁ら他の従業員とともに当該研究に従事することになった。右研究の過程で、トランスを小型化するため小型で安価なトランジスターを用いて周波数を高くすることが考えられ、これが高周波誘導加熱方式の電気炉を小型化、低価格化するために利用できることが判明した。

そこで、被告は、昭和五五年高周波大容量変圧器用鉄心(実願昭五六-一〇五五三二号〔甲六〕)及び高周波誘導加熱コイル(実願昭五六-一八四〇二八号〔甲七〕)を考案するとともに、内田らの共同作業によって発明され完成されたA物件を製造、販売するようになった。

このように、A物件にかかる発明は、内田のみによる発明ではなく、被告代表者及び他の従業員との共同の発明であり、また、被告の主力製品の改良の研究過程において被告の資金、設備、人材を利用してなされた発明であり、したがって、使用者たる被告の業務範囲に属し、かつ、従業者たる内田らの職務の範囲に属する行為によりなされたものであるから、被告は、特許法三五条により、A物件にかかる発明、すなわち本件発明につき通常実施権を有する。

(二) 原告は、被告と内田とは、特許法三五条の予定する使用者等と従業者等との関係になかったし、昭和五六年には何らの関係もなかった旨主張するが、内田が昭和五五年一月に被告に再入社して昭和五七年七月に退職するまでの間、被告に勤務して労務を提供し、被告から給与等の対価を得ていたことは明らかである(乙一ないし三、四の1・2、五、六)。

【原告の主張】

1 仮にA物件にかかる発明が本件発明の技術的範囲に属するとしても、被告は、特許法七九条所定の要件を満たさないから、先使用権を有しない。

(一) 原告は、昭和五七年七月、内田との間で、技術開発等に関する契約を締結し、内田が本件発明を完成した後、右契約に基づき特許を受ける権利を譲り受け、特許出願をして特許を受けたものである。

被告は、A物件にかかる発明を本件発明の発明者である内田から知得した旨主張するが、そうだとすれば、被告は、特許法七九条所定の「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して」という要件を欠くことになるから、被告の主張は、それ自体失当ということになる。被告の主張するように旧特許法(大正一〇年法)では知・不知の問題であったが、これを発明の知得経路の要件として改正し、先使用権による保護はいわゆる二重発明の場合に限定するのが現行特許法の趣旨であるからである。

なお、法的には、本件のように原告と被告が同一発明者から知得した場合は、特許法三四条一項の特許出願前における特許を受ける権利の承継の対抗要件の問題となるが、特許出願をして対抗要件を備えたのは原告である。

(二) 被告は、昭和五五年一〇月に内田らがA物件にかかる発明を完成した旨主張するが、当時内田が完成し、被告が出願したのは特開昭五七-六五二八一号公開特許公報(甲五)にかかる発明であり、A物件にかかる発明とは異なる。また、被告は、昭和五六年七月一六日及び同年一二月九日に出願した考案については取締役の名で出願しているのであるから、仮に内田らがA物件にかかる発明を完成していたならば、内田の被告在職中に出願したはずであるのに、出願していないということは、昭和五五年一〇月頃から被告がA物件の製造販売を始めたという事実のないことを示すものである。

2 仮にA物件にかかる発明が本件発明の技術的範囲に属するとしても、A物件にかかる発明は内田の職務発明に該当しないから、被告は、A物件にかかる発明、すなわち本件発明につき職務発明による通常実施権を有するものではない。

(一) 内田が昭和四七年に被告に入社し、昭和五二年頃に退社した事実は認めるが、内田が昭和五五年一月に被告に再入社したとの事実は否認する。

右昭和四七年から昭和五二年までの在籍期間中も、昭和五一年一一月一六日に、内田がした発明につき内田の実兄内田信英が出願しているから(特開昭五三-六二七五六号公開特許公報〔甲四〕)、被告と内田とは特許法三五条の予定する使用者等と従業者等との関係にはなかったということができる。

また、内田は、自らがした発明、考案については、その当時に何らかの契約関係にあった会社にその特許、実用新案登録を受ける権利を譲渡し、関係会社がないときは実兄又は自らが出願人となっているところ、被告の取締役が昭和五六年七月一六日及び同年一二月九日に出願した考案(甲六、七)には、内田は何ら関係していないから、内田と被告との関係が継続していたのは昭和五五年頃までであり、昭和五六年には何らの関係もなかったことが窺えるのである。

(二) 昭和五五年一〇月に内田らがA物件にかかる発明を完成していないこと、その頃から被告がA物件の製造販売を始めたという事実のないことは、前記1(二)のとおりである。

三  争点3(被告が原告に対して損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額)について

【原告の主張】

1 被告は、別紙「販売実績表」記載のとおり、平成二年二月一五日から平成三年一二月七日までの間に、イ号物件を製造、販売して合計一億一五四五万円の売上げを得た。

本件発明の通常の実施料は、販売額の三%が相当である。

2 したがって、原告は、特許法一〇二条二項に基づき、通常実施料相当額の三四六万三五〇〇円(一億一五四五万円×〇・〇三)を、被告の本件特許権侵害行為により原告が被った損害の額としてその賠償を求める。

【被告の主張】

1 右1の原告の主張のうち、被告が、別紙「販売実績表」記載のとおり、平成二年二月一五日から平成三年一二月七日までの間に、イ号物件を製造、販売して合計一億一五四五万円の売上げを得たことは認めるが、本件発明の通常の実施料は販売額の三%が相当であるとの点は否認する。

2 右2の原告の主張は争う。

第四  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(イ号物件及びA物件が本件発明の技術的範囲に属するか否かの点に関係して、本件発明にいう「トランジスター」は、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されるか)について

原告は、本件発明にいう「トランジスター」は、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されるから、一素子(物理的に一個)のダーリントントランジスターを二個直列接続した回路構造の富士モジュールを使用したイ号物件は本件発明の技術的範囲に属し、一方、二四個の小トランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続した構成のA物件は本件発明の技術的範囲に属しないので、被告は本件発明について先使用権も職務発明による通常実施権も有しないものであり、したがって、被告によるイ号物件の製造販売は本件特許権を侵害するものであると主張し、これに対し、被告は、本件発明にいう「トランジスター」は、一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されず、複数の素子を並列接続したトランジスターユニットを含むから、二個のダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続した富士モジュールを使用したイ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するが、多数(二四個)のトランジスターを並列接続したトランジスターユニットを直列接続したA物件も本件発明の技術的範囲に属するものであり、したがって、被告は、A物件にかかる発明すなわち本件発明について先使用権及び職務発明による通常実施権を有するので、被告によるイ号物件の製造販売は本件特許権を侵害するものではないと主張する。

1  以下、本件発明にいう「トランジスター」が、原告主張のように一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されるか、それとも被告主張のように一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されず、複数の素子を並列接続したトランジスターユニットを含むものであるか、について判断する。

(一) まず、本件発明の特許請求の範囲の記載は、本件明細書(本件特許公報)の記載に徴すれば、前記第二の一1(二)の争いがない事実のとおり、

(イ)ⅰ 交流電源に直流交換器を介して接続した直流回路に、

ⅱ 大電力を引出すためのインバータ回路を構成する素子としてトランジスタを多数並列に接続し、

(ロ)ⅰ この並列の回路を誘導コイルに連結すると共に、

ⅱ バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入した

(ハ) ことを特徴とする電磁誘導加熱装置

という構成要件に分説するのが相当と認められる。

また、本件発明が「サイリスターをインバータ素子とした高周波変換装置のように転流回路を必要としないので、転流エネルギーが不必要な分だけ効率的になり、大電力用の場合は特に全体がコンパクトになり、低価格に提供できる」(本件特許公報4欄18行~23行)という効果を奏することも当事者間に争いがない。

(二)(1) 本件明細書の発明の詳細な説明の欄における「トランジスター」についての記載をみると、本件発明の出願時点の技術について、「現時点では大電力を制御するトランジスター素子は開発されておらず、且つ将来的には高い周波数でのスイチングになると、正孔蓄積効果などの要因のために大容量化には限界がある。」、「小電力のトランジスタ素子を用いて大電力の制御を可能に」する「第4図に示す如く多数のトランジスターと抵抗とからなる素子を並列に設けた」「構造は仮りにその一つのトランジスター素子のオフ能力に故障が起きたとすると、他の並列素子に短絡電流が流れ、さらに系全体に波及して全素子を破壊することになる」(本件特許公報2欄5行~18行)と記載され、本件発明は、「上記の点に鑑みインバータ素子として一素子当り小容量のトランジスターを多数並列状に配置する共に、これら各トランジスターをそれぞれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続して、本願の所期の目的を達成せしめたものである。」(同欄22行~27行)と記載され、また、本件発明の実施例について、「前記の高周波変換装置は直流回路14、15間に形成した並列回路16、17にそれぞれ2個づつのトランジスター1a、2a、1b、2bを介設し、前記各並列回路における両トランジスター間からそれぞれ分岐した出力回路3a、3bをそれぞれコンデンサー4a、4bを介して誘導コイル5の両端に接続したものである。」(同3欄4行~10行)、「仮りに所定のトランジスター1aが何等かの原因でオフ能力を失しなっても、次の信号によって2a系列のトランジスターがオンすると、コンデンサー4aによって連続的な短絡電流は遮断され、トランジスタ2aの破壊のみで全体系列への影響を防止でき、1アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせない。」(同4欄8行~14行)と記載されていることが認められる。

これらの記載によれば、本件発明の出願時点における技術についての「大電力を制御するトランジスター素子」、「小電力のトランジスタ素子」、「第4図に示す如く多数のトランジスターと抵抗とからなる素子を並列に設けた」、「一つのトランジスター素子のオフ能力に故障が起きたとすると、他の並列素子に短絡電流が流れ、さらに系全体に波及して全素子を破壊することになる」との記載、本件発明についての「インバータ素子として一素子当り小容量のトランジスターを多数並列状に配置する共に、これら各トランジスターをそれそれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続して、」との記載のように、「トランジスター」という語は、本件発明の出願時点における技術、その課題を解決する本件発明そのものについての説明において、一貫して、一つずつの物品として認識することが可能な、個々の部品を意味するものとして使用されているのであって、複数のトランジスターを並列接続したトランジスターユニットのようなものは念頭に置かれていないことが明らかであり(これに反する被告の主張は採用することができない)、本件発明の実施例としても、「並列回路16、17にそれぞれ2個づつのトランジスター1a、2a、1b、2bを介設し」、「仮りに所定のトランジスター1aが何等かの原因でオフ能力を失しなっても、次の信号によって2a系列のトランジスターがオンすると、コンデンサー4aによって連続的な短絡電流は遮断され、トランジスタ2aの破壊のみで全体系列への影響を防止でき、1アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせない。」との記載のように、「トランジスター」が一つずつの物品として認識することが可能な、個々の部品を意味するもののみが示されており、複数のトランジスターを並列接続したトランジスターユニットのようなものは示されていない。

(2) また、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の本件発明の課題、目的、構成についての記載(本件特許公報1欄13行~2欄27行)によれば、(1)従来、電磁誘導加熱装置に用いられる高周波変換装置におけるインバータ素子としては、主にサイリスターが用いられているが、オフ動作ができないため、付帯装置として転流回路を設けることが必要であり、したがって、大電力による高周波変換装置では転流付帯装置も大型になるので、従来提供されているこの種の電磁誘導加熱装置は大型でかつ高価格であった(1欄13行~25行)、(2)他方、インバータ素子として「トランジスター」を使用する小電力の高周波変換装置自体は、周知の技術であるが、大電力を制御するトランジスター素子が開発されていないため、トランジスターを用いた高周波変換装置の大容量化には限界があった(2欄4行~9行)、(3)そして、現在の技術水準で小電力のトランジスター素子を用いて大電力の制御を可能にするには、多数のトランジスターを並列接続することが考えられるが、同じ種類のトランジスターでも、各トランジスターの諸特性にバラツキのあることが避けられないことから、並列接続した各トランジスターに均等な電流を流すことができない(不平衡電流)という問題があり(この点については、後記説示参照)、この問題に対しては、本件明細書の第4図に示すように、抵抗配分により各トランジスターに均等に電流を配分する(バランスさせる)ことが行われているが、この抵抗配分では、一つのトランジスターが故障すると、全トランジスターが連鎖的に破壊するおそれがあり(同欄9行~18行)、また「抵抗による熱損」(4欄7、8行)も生じるという欠点があった、(4)そこで、本件発明においては、インバータ素子として周知の「トランジスター」を用いることを前提として、大容量化を図ることとし、そのための手段として「大電力を引出すためのインバータ回路を構成する素子としてトランジスタを多数並列に接続」する構成(構成要件(イ)ⅱ)を採用したものであるが、並列接続した各トランジスターに均等に電流を流すため、バランサーを用いることとし、併せて右連鎖的破壊、発熱による電力損失という欠点も改善することを目的として、「バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入した」構成(構成要件(ロ)ⅱ)を採用したものである(同1欄26行~2欄3行、同2欄22行~27行)ことが認められる。

したがって、本件発明の特徴は、<1>インバータ回路の素子として、トランジスターを多数並列に接続することを前提に、<2>バランサーとしてコンデンサーを用いること、<3>このコンデンサーをそれぞれのインバータ回路(右<1>の各トランジスターによって構成される回路)に直列に挿入することにあるということができる。

そして、本件発明の前提には、大電力の高周波変換装置を構成するために小電力「トランジスター」を多数並列に接続して使用したいが、本件明細書の第4図のように単純に並列接続をする構成では連鎖的破壊の問題があるとの認識が基本にあり、本件発明は、単純にトランジスターを並列接続する周知の並列接続の構成は排除し、これを採用しないことを前提としているものと解される。

そうすると、需要者においてトランジスターを複数個並列接続して適宜組み立てるトランジスターユニットのようなものは、本件発明においては排除された周知の並列接続の構成であるから、本件発明にいう「トランジスター」には含まれないというべきである。

なお、同じ種類のトランジスターでも、各トランジスターの諸特性にバラツキのあることが避けられないことから、並列接続した各トランジスターに均等な電流を流すことができない(不平衡電流)という問題があること(右(3)参照)については、昭和五八年八月発行の「83東芝半導体データブック パワートランジスタ編」(甲一二の1)に、「素子のバラツキ」として、「工程の完全自動化はもとより、管理手法の活用で、品質のバラツキは皆無に近いものといえます。しかし、トランジスタに限らず半導体製品は、その形状、構造、寸法が極めて小さく、物理化学的な技術を基に、そして高精度に制御管理する精密技術の上に成り立っております。このため、そのわずかな偏差でも特性におよぼす影響は大きく、最新技術を駆使しても、諸特性を均一に保つことは難しいといえます。」、「TOSHIBA GTRモジュール1989」(甲一二の2)に、「並列運転」として、「GTRを並列接続するとき問題となるのは基本的には、電流アンバランスです。 ・hFEの差による電流アンバランス ・ターンオフ時の電流アンバランス ・配線などの外部回路による電流アンバランス」と記載され、平成三年三月発行の「91三菱半導体データブック パワーモジュール/スタック編vol.1」(甲一三の1)及び同じく「vol.2」(甲一三の2)に、トランジスターを並列接続する場合は、hFEの差により電流アンバランスが生じるから、並列使用の指定がある場合には並列個数分を一アイテム一組として納入するが、それでも定格電流において±一〇%程度の不平衡率は発生するので、掲記の公式に従ってディレーティング使用をする必要がある旨記載され、大阪府立大学工学部電気電子システム工学科教授武田洋次作成の平成八年三月二三日付「トランジスタの並列接続に関して」と題する書面(甲二〇の1)に「トランジスタの並列接続は個々のトランジスタの特性にバラツキがあるため電流分担を均等にするためには何らかの対策が必要である。一般にはトランジスタのエミッタに抵抗を接続する方法がパワートランジスタが実用に供された頃から用いられている。」と記載され、同書面に引用された昭和五三年二月二五日株式会社オーム社発行の沢邦彦・春木弘著「パワートランジスタ読本」(甲二〇の2)に、「一般には、異なった形名のパワートランジスタを並列接続することはなく、同一形名のトランジスタを並列に接続するのであるが、hFEやVBEは、同じ形名のトランジスタであってもバラツキがあり、したがって、式(5・28)を満たすような対策をしない限りコレクタ電流の不平衡が生ずることが判る。」と記載されていることが認められ、本件発明の出願時点における技術常識であったと認められる。

(3) 右(1)及び(2)によれば、本件発明にいう「トランジスター」は、需要者が部品として購入(準備)し、需要者において保管、組立て等の取扱いができる通常の意味での部品、すなわち独立した金物(ハードウエア)としての部品を意味するというべきである。本件発明にいう「トランジスター」は一素子(物理的に一個)のトランジスターに限定されるとの原告の主張は、右と同旨をいうものとして採用することができる。逆に、複数の素子を並列接続したトランジスターユニットを含むものであるとする被告の主張は採用することができない。

なお、原告は、本件発明はトランジスターに抵抗等のバランサーを挿入する従来技術を当然の前提とした、換言すれば、ディレーティング使用を回避することを当然の前提とした発明であると主張するところ、バランサーを使用することが、直ちにディレーティング使用をしないことを意味するとはいえず、バランサーを使用してもディレーティング使用を併用することは想定されるから、右原告の主張は採用することができないが、このことは、前記説示に照らし、本件発明にいう「トランジスター」は独立した金物(ハードウエア)としての部品を意味するとする右認定を左右するものではない。

(三) 被告が本件発明にいう「トランジスター」は複数の素子を並列接続したトランジスターユニットを含むものであるとする主張の根拠として主張するところは、以下の理由により、いずれも採用することができない。

(1) 被告は、「バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入した」という構成要件(ロ)ⅱが本件発明の本質となっていて、この発明の本質的部分から、本件発明の効果のうちの「仮りに所定のトランジスター1aが何等かの原因でオフ能力を失しなっても、次の信号によって2a系列のトランジスターがオンすると、コンデンサー4aによって連続的な短絡電流は遮断され、トランジスター2aの破壊のみで全体系列への影響を防止でき、一アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせない。」(本件特許公報4欄8行~14行)という効果が生じるのであって(但し、右課題が解決されるのは、コンデンサーのバランサーとしての作用によるものではない)、トランジスターを一素子としたか否かな関係がない旨主張する。

被告の主張する「バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入した」という構成要件(ロ)ⅱが本件発明の特徴の一つであることは、前記(二)(2)説示のとおりであるが、「インバータ回路の素子として、トランジスターを多数並列に接続することを前提とすること」もまた、同等に本件発明の特徴であることを考慮しないものである。

(2) 被告は、本件発明にいう「トランジスター」に関して、特許請求の範囲には、「大電力を引出すためのインバータ回路を構成する素子としてトランジスタを多数並列に接続し、」と記載されており、インバータ回路を構成する素子であればよいところ、素子とは、「部品又は装置を一つの機能体としてみた場合、その機能体を構成する単位。」(乙一六)とされているから、本件発明にいう「トランジスター」は、インバータ回路(機能体)を構成する単位であり、その形態は問わないことになる、と主張し、更に、トランジスターの形態は、その製造可能性、入手容易性、経済性、安全性等を考慮して選択するのが設計上の通例であり、時代の推移によっても変化するものであるから、物理的に一個のトランジスターであろうと、物理的に一個のトランジスターを複数並列に接続したトランジスターユニットであろうと、ダーリントントランジスターであろうと、いずれも本件発明にいうインバータ回路を構成する単位(素子)としてのトランジスターであり、いかなるトランジスターの形態をとるかは、設計者が種々の情勢を考慮して決定する問題であり、本件発明の本質に関係しないと主張する。

被告援用の「JIS用語辞典 Ⅲ 電気編」(乙一六)における「集積回路用語(C5610-1975)」の「基本用語」の欄には、被告主張のとおり「素子」の項に「部品又は装置を一つの機能体としてみた場合、その機能体を構成する単位。」と記載されているところ、右JISの規定は、集積回路に用いる用語について規定するものであって、ここでいう「素子」とは、部品をその機能面に着目して把握するときの概念であると考えられる(ちなみに、右「基本用語」の欄の「部品」の項には、「トランジスタ、コンデンサ、スイッチ、ねじなど一つの機能体を金物(hard ware)としてみた場合の構成部分。」と記載されている)。たとえば、トランジスターという部品は、増幅作用(機能)を有し、そのほかにスイッチング等の機能を有するものであるから、同じトランジスターでも、それが増幅回路に使用されるときは増幅素子と呼ばれ、スイッチング回路に使用されるときはスイッチング素子と呼ばれるのである。したがって、被告主張のようにインバータ回路を機能体として捉えれば、そのインバータ回路自体がインバータ作用(機能)を有する素子なのであって、「インバータ回路(機能体)を構成する単位」すなわち「トランジスター」という関係にはないものと考えられる。

そして、いかなるトランジスターの「形態」をとるかは、本件発明の本質に関係しないとしても、だからといって、いかなるトランジスターの「使用形態」のものも含むということにはならない。トランジスターの「形態」とは、トランジスターの外形形状、寸法、パッケージ手段、端子の形状・配置、独立部品・複合部品の形態などが考えられるが、あくまで部品として一個の金物である。これに対して、トランジスターの「使用形態」とは、トランジスターを独立して使用するか、並列接続して使用するか、の問題であって、トランジスターの「形態」そのものとは異なるからである。

(3) 被告は、原告はその出願当初の明細書(乙一七)の特許請求の範囲において「インバータ素子として一素子当り小容量のトランジスター」としていたのを、補正により「一素子当り小容量の」という限定を削除したのであるから、本件発明におけるインバータ素子としてのトランジスターについて、物理的に一個であるとか、原告のいう一素子(特性等を計測可能な最小単位)であるというように限定的に解釈することは許されない旨主張する。

確かに、原告は、被告主張のように、その出願当初の明細書(乙一七)では、特許請求の範囲を「インバータ素子として一素子当り小容量のトランジスターを多数並列状に配置すると共に、これら各トランジスターをそれぞれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続し、大電力を引出すようにしたことを特徴とする電磁誘導加熱装置。」としていたのを、昭和六二年一〇月一五日付で「特許請求の範囲に記載の加熱装置は本願発明を正確に特定していない。」との記載不備に関する拒絶理由通知(乙一八)を受け、同年一二月一日付手続補正書(乙一九)により、右特許請求の範囲の記載のうち「一素子当り小容量の」という記載を削除するなどして現在の特許請求の範囲としたうえで特許を受けたことが認められるが、右の「小容量の」との記載は、特許請求の範囲の記載を不明確にするものであり、右補正は当然ともいうことができ、「一素子当り小容量の」という記載を削除したからといって、トランジスターの容量についての限定がなくなっただけであって、素子としての「トランジスター」の意味内容が変化したわけではないというべきである。

2  そこで、イ号物件に使用されている富士モジュールが前記1(二)(3)にいう「独立した金物(ハードウエア)としての部品」に該当するか否かについて検討する。

(一) 検甲第一号証(富士モジュールの現物)、第二号証の1~4(富士モジュールの外観の写真)、検乙第一四、第一五号証(富士モジュールのモールド樹脂を剥離したものの写真)、乙第一四号証(被告訴訟代理人から富士電機株式会社宛の平成六年一二月二日付照会書)及び第一五号証の1(これに対する同社からの平成七年二月二〇日付回答書)並びに弁論の全趣旨によれば、富士モジュールは、樹脂モールドされており、これを剥離したものの構造をみれば、二つのダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニット101aと同じく二つのダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニット102aとを直列に接続したものであることが認められるが、これは、あくまで富士モジュールを分解した状態での構造である。

そもそも富士モジュールは、富士電機株式会社が種々の応用分野を想定し、汎用性ある部品として設計し、樹脂モールドした完成製品として販売しているものであり、需要者においては、カタログ(甲一五)の中から一つのスイッチング機能を有する部品として選択するものであって、その他の単品のトランジスターやサイリスタと同様に、その内部構造を考慮する必要はなく、富士モジュールそれ自体の流せる電流の大きさ、スイッチング時間等の性能を目安に、自己の製品に採用するかどうかを検討すれば足りるのであり、その内部回路を変更するようなことは予定されておらず、内部構造の一部のみが破壊された場合も、その内部構造を修理して再使用するようなものではなく、その一つの富士モジュール全体を取り替えてしまうものであるから、これはまさしく単品の部品の取扱いそのものである。これに対し、トランジスターユニットは、需要者において、購入した複数の部品を組み合わせて適宜設計し、その内容(回路)を必要に応じて変更することができるものであり、トランジスターユニット内の一部が破壊された場合も、その破壊された部品のみを交換することによりトランジスターユニット全体を再使用することができるものである。

したがって、富士モジュールは、一個の部品であって、「独立した金物(ハードウエア)としての部品」であり、前記内部構造の、二つのダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニット101aと同じく二つのダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニット102aとは、それぞれが本件発明にいう「トランジスター」であって、これらを直列に接続した構造であるから、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものといわなければならない(イ号物件が本件発明のその他の構成要件を具備することは明らかである。被告も、イ号物件が本件発明の技術的範囲に属すること自体は争わないところである)。

(二) 被告は、もし原告があくまで本件発明にいうトランジスターは一素子(物理的に一個)であると主張するならば、被告はイ号物件は本件発明の技術的範囲に属しないと主張せざるをえないとするが、その理由は、イ号物件は、トランジスターとして並列接続した二つのダーリントントランジスターを用いたものであり、それは原告のいうような一素子(物理的に一個)ではないからである、というものであり、右の「並列接続した二つのダーリントントランジスター」が本件発明にいう「トランジスター」に該当することは前示のとおりであるから、採用することはできない。

3  次に、A物件について検討する。

(一) A物件の構成が別紙「先使用に係る物件(A物件)説明書」記載のとおりであることは、前記第二の一2のとおり当事者間に争いがない。

これによれば、A物件のトランジスターユニットは、需要者において個々に購入(準備)、保管、組立て等の取扱いができる金物(ハードウエア)としての部品であるトランジスターを、複数個並列接続してプリント基板上に組み立ててユニット化したものであることが認められる。

右A物件のトランジスターは、確かにユニット全体として一つの大容量のトランジスターと同じように機能するものではあるが、本件発明にいう「トランジスター」は、前示のとおり「独立した金物(ハードウエア)としての部品」をいうから、A物件のトランジスターユニットは、本件発明にいう「トランジスター」に該当しないというべきである。

したがって、A物件は、本件発明の構成要件(イ)ⅱを充足しないから、その余の点について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。

(二) なお、被告は、技術の進歩により、従前の複数のダーリントントランジスターを一つの基板上にプリントできるようになったため、被告は、富士モジュールをイ号物件に使用し、トランジスターの形態(並列個数等)を変更したものにすぎないから、イ号物件は、A物件と何ら相違はなく、A物件についての先使用権及び職務発明による通常実施権の効力が及ぶものであると主張する。しかし、トランジスターの形態を変更したものにすぎないのであれば、A物件において使用していたトランジスターに代えて複数個の富士モジュールにより、モジュールユニットを構成することになると考えられるが、被告の行ったトランジスターユニットから富士モジュールへの変更は、トランジスターの「形態」の変更ではなく、「使用形態」の変更であると考えられる。

4  以上のとおり、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するが、A物件は本件発明の技術的範囲に属しないから、争点2(A物件にかかる発明について、被告は先使用権又は職務発明による通常実施権が成立するためのその他の要件を充足しているか)について判断するまでもなく、被告は本件発明について先使用権も職務発明による通常実施権も有しないことになり、したがって、被告によるイ号物件の製造販売は本件特許権を侵害するものであるので、被告に対し、特許法一〇〇条一項に基づきイ号物件の製造販売の差止めを、同条二項に基づきイ号物件の廃棄を求める請求は理由があるというべきである。

また、被告は、民法七〇九条に基づき、イ号物件を製造、販売したことによって原告の被った損害を賠償すべき義務があるということになる。

二  争点3(被告が原告に対して損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額)について

そこで、被告によるイ号物件の製造販売によって原告の被った損害の額について判断する。

被告が、別紙「販売実績表」記載のとおり、平成二年二月一五日から平成三年一二月七日までの間にイ号物件を製造、販売して合計一億一五四五万円の売上げを得たことは、前記第三の三のとおり当事者間に争いがない。

そして、原告は、特許法一〇二条二項に基づき、本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求するところ、弁論の全趣旨によれば、本件発明の実施に対し通常受けるべき実施料の額は売上額の三%と認めるのが相当である。

したがって、被告は、イ号物件の売上額一億一五四五万円の三%である三四六万三五〇〇円及びこれに対する平成三年一二月七日(右期間におけるイ号物件の最終販売日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があることになる。

第五  結論

よって、原告の請求はいずれも理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する(平成一〇年二月五日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 小出啓子 裁判官田中俊次は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

別紙

イ号物件説明書

一 図面の簡単な説明

第1図 イ号物件の全体側面図

第2図 イ号物件の材料自動供給装置および加熱装置の平面図

第3図 イ号物件の電気回路全体図

第4図 イ号物件のトランジスタの内部回路図

二 構造上の特徴の説明

1(1) イ号物件は電磁誘導加熱装置であって、材料自動供給装置A、加熱装置Bおよびインバータ装置Cからなり、インバータ装置Cと加熱装置Bは出力ケーブルD1、D2により接続されている。

(2) 前記材料自動供給装置Aは金属製加熱材料Wをためる材料ホッパーA1、前記材料Wを持ち上げるコンベアA2、該コンベアA2を作動されるモータA3等より構成されている。

(3) 前記加熱装置Bは材料受けB1、材料搬出入エアシリンダーB2、前後移動エアシリンダーB3、一対の加熱コイルユニットB4・B4及び材料搬出シュートB5から構成されている。

右一対の加熱コイルユニットB4・B4には、前記出力ケーブルD1、D2と接続された複数の誘導コイル105、・・、105が内蔵されている。

(4) 前記インバータ装置Cは三相交流電源113に接続され、整流器110・110・110、後記の多数のトランジスタ及びコンデンサー等が内蔵されている。

(5) 前記三相交流電源113、整流器110・110・110多数のトランジスタ、コンデンサー、出力ケーブルD1、D2及び複数の誘導コイル105、・・、105等によって第3図に示す電気回路が構成されている。

2. 第3図の電気回路の構成は以下の通りである。

(1) 114、115は三相交流電源113に整流器110・110・110、電解コンデンサー111などの直流変換素子を介して接続された直流回路である。

(2) 右直流回路114、115間には、並列回路116a・116c・・・116e・116g、117b・117d・・・117f・117hが多数並列に接続され、各回路には101aと102a、101cと102c、・・101hと102hのように2個ずつトランジスタが介設されている。

右各並列回路における2つのトランジスタ101aと102a、101bと102b、・・・、101hと102hの各間から、各々、出力回路103a、103b、・・・、103hが分岐している。

(3) 右の誘導コイル105、・・、105を隔てた両側の対称関係にある、例えばトランジスタ101aと101b、102aと102b、及び、出力回路103a、103bが1組の高周波変換回路120を形成している。

同様に、トランジスタ101cと101d、102cと102d、及び、出力回路103c、103dが1組の高周波変換回路120を、トランジスタ101eと101f、102eと102f、及び、出力回路103e、103fが1組の高周波変換回路120を、トランジスタ101gと101h、102gと102h、及び、出力回路103g、103hが1組の高周波変換回路120を、各形成している。

(4) 右の多数の高周波変換回路120・・・120は、前記直流回路114、115間に並列状に接続されている。

(5) 前記出力回路103a、103b、・・・、103hは、各々直列に接続されたコンデンサー104a、104b、・・・、104hを介してまとめられ、更に前記出力ケーブルD1、D2を介して、前記誘導コイル105、・・105に連結されている。

3. イ号物件に使用されているトランジスタ101a、102a、101c、102c、・・・101h、102hは、いずれもダーリントントランジスタであって、その内部の構成は第4図に示すとおりである。

二 イ号物件の作動並びに機能について。

1. 後述するように電磁誘導加熱される金属製加熱材料Wの材料自動供給装置Aから加熱装置Bへの供給、及び、加熱装置Bからの搬出は以下の通りである。

(1) 材料ホッパーA1よりコンベアA2により持ち上げられた材料W1は加熱装置Bの材料受けB1に供給される。

(2) 材料受けB1に供給された右材料W1は、材料搬出入エアシリンダーB2が材料受けB1長さ方向に移動することにより、第2図左側の加熱コイルユニットB4に押し込むようにして搬入され、後述するように電磁誘導加熱される。

(3) 次なる材料W2も1と同様に材料受けB1に供給されるが、第2図左側の加熱コイルユニットB4には既に材料W1が供給され加熱中であるので、前後移動エアシリンダーB3により材料受けB1、材料搬出入エアシリンダーB2ごと第2図右側の加熱コイルユニットB4に供給できる位置(第2図の破線で示す位置)に移動させられる。

(4) そして、右材料W2は、材料搬出入エアシリンダーB2が材料受けB1長さ方向に移動することにより、第2図右側の加熱コイルユニットB4に押し込むようにして搬入される。

(5) 右材料W2を第2図右側の加熱コイルユニットB4に押し込んだ材料搬出入エアシリンダーB2は材料受けB1とともに、前後移動エアシリンダーB3により第2図左側の加熱コイルユニットB4に供給できる位置(第2図の実線で示す位置)に戻される。

(6) その後、1と同様に材料受けB1に供給される更に次なる材料W3は、材料W1と同様に材料搬出入エアシリンダーB2の移動により、第2図左側の加熱コイルユニットB4に押し込むようにして搬入される。

この際、既に電磁誘導加熱された材料W1は、材料W3の第2図左側の加熱コイルユニットB4への搬入により、右加熱コイルユニットB4から押し出されるようにして材料搬出シユートB5へ搬出される。

(7) その後、1と同様に材料受けB1に供給される更に次なる材料W4は、材料W2と同様に3の工程で第2図右側の加熱コイルユニットB4に供給できる位置に移動させられ、6の工程と同様に第2図右側の加熱コイルユニットB4に押し込むようにして搬入される。

この際、既に電磁誘導加熱された材料W2は、材料W4の第2図右側の加熱コイルユニットB4への搬入により、右加熱コイルユニットB4から押し出されるようにして材料搬出シュートB5へ搬出される。

(8) その後、5の工程と同様に材料搬出入エアシリンダーB2は材料受けB1とともに、前後移動エアシリンダーB3により第2図左側の加熱コイルユニットB4に供給できる位置に戻される。

(9) 以上の工程が繰り返される。

2. 次に、イ号物件による金属製加熱材料Wの電磁誘導加熱は以下のようにしてなされる。

(1) 交流電源113からの三相交流電流は、整流器110・110・110、電解コンデンサー111等の直流変換素子によって、直流電流に変換され、直流回路114、115に接続される。

尚、以下、直流回路114側をプラス、115側をマイナスとして説明する。

(2) 第3図において一側の誘導コイル105、・・、105を隔てた対称位置にあるトランジスター101aと101b、101cと101d、・・、101gと101hにベース信号が与えられると第3図の赤矢印で示す番号順方向に直流電流が流れる。

(3) 次に、第3図において他側の同じく誘導コイル105、・・、105を隔てた対称位置にあるトランジスタ102aと102b、102cと102d、・・、102gと102hにベース信号が与えられると第3図の青矢印で示す番号順方向に直流電流が流れる。

(4) 2、3で説明したようにベース信号を1秒間に何万回以上の割合で交互に対称的に与えることで、誘導コイル105、・・、105を流れる電流の方向が右の割合で交互に逆転させ、高周波電流(交流電流)に変換する。

前記誘導コイル105、・・、105に高周波電流が流れると磁力線が発生する。

(5) ところで、前記金属製加熱材料Wは加熱コイルユニットB4に供給することで右誘導コイル105、・・、105に供給されているが、前記の誘導コイル105、・・、105からの磁力線により電磁誘導されることによって、右材料Wには渦電流が発生する。

(6) 右材料Wには電気抵抗があるため、右の渦電流により右材料W自体が発熱することになる。

3. 前記回路、コンデンサー等の機能は以下の通りである。

(1) イ号物件は周波数50ヘルツ(関東)又は60ヘルツ(関西)の低周波三相交流電流を前記直流変換素子により直流に変換し、その後、前記の多数の高周波変換回路120、・・、120により高周波電流(交流)に変換される。

すなわち、1組の高周波変換回路120は小容量のトランジスターを4個用いることにより形成されているが、この高周波変換回路120を前記直流回路114、115間に、多数並列状に接続することにより、前記誘導コイル105、・・、105に大電力を印加することを可能にしている。

(2) 前記の出力回路103a、103、・・・、103hに、各々直列に接続されたコンデンサー104a、104b、・・・、104hは、前記トランジスターの個々の特性の相違があったとしても、前記出力回路103a、103b、・・・、103hに均一な電流を流す機能、換言すれば、バランサーとしての機能を有する。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

詳細は別図1、別図2の通り

別図1 富士パワーモジュール2DI100D-050の外観及び端子の配列

別図2 第3図の一部詳細図。破線内が第4図の詳細図であり、青線内が富士パワーモジュール2DI100D-050である。

別図1

<省略>

(参考 甲15-Fig.C3)

別図2

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 昭63-31907

<51>Int.Cl.4H 05 B 6/04 識別記号 321 庁内整理番号 6744-3K <24><44>公告 昭和63年(1988)6月27日

発明の数 1

<54>発明の名称 電磁誘導加熱装置

<21>特願 昭57-190322 <65>公開 昭59-79991

<22>出願 昭 57(1982)10月28日 <43>昭59(1984)5月9日

<72>発明者 内田重泰 大阪府大阪市大正区千島1丁目1番47号

<71>出願人 株式会社内野鉄工所 大阪府大阪市西区安治川2丁目1番40号

<74>代理人 北隅康彦

審査官 本多弘徳

<57>特許請求の範囲

1 交流電源に直流変換器を介して接続した直流回路に、大電力を引出すためのインバータ回路を構成する素子としてトランジスタを多数並列に接続し、この並列の回路を誘導コイルに連結すると共に、バランサーとしてそれぞれのインバータ回路にコンデンサーをそれぞれ直列に挿入したことを特徴とする電磁誘導加熱装置。

発明の詳細な説明

本発明は高周波によつて例えば鍛造用金属棒などの被加工物を加熱する電磁誘導加熱装置に関するものである。

従来、電磁誘導加熱装置に用いられる高周波変換装置におけるインバータ素子としては主にサイリスターが用いられている。しかし、元来サイリスターは、電力の位相制御を目的として開発されたものであり、小電力でオン動作ができる特長があるが、オフ動作ができない。従つて、サイリスターをインバータ素子として使用する高周波変換装置には転流回路を付帯装置として設けなければならない。被加工物を能率よく加熱するには、それ相当の電力が必要で、大電力による高周波変換装置では転流付帯装置も大型になり、従つて、従来提供されているこの種の電磁誘導加熱装置は不必要と思われる程大型で、且つ高価格である。

本発明の主なる目的は、大電力高周波変換装置におけるインバータ素子としてトランジスターを用い且つその電力バランサーとしてコンデンサーを用いることにより、転流回路の使用を不必要とし、結果として、電磁誘導加熱装置をコンパクトに構成すると共に、低格価に提供できることを可能にしたものである。

なお、インバータ素子としてトランジスターを使用すること自体に新規性はないが、しかし現時点では大電力を制御するトランジスター素子は開発されておらず、且つ将来的には高い周波数でのスイツチングになると、正孔蓄積効果などの要因のために大容量化には限界がある。従つて小電力のトランジスタ素子を用いて大電力の制御を可能にしようとすれば、現在の技術水準で第4図に示す如く多数のトランジスターと抵抗とからなる素子を並列に設けたエミツターフロワーによる抵抗配分が考えられる。しかし当該構造は仮りにその一つのトランジスター素子のオフ能力に故障が起きたとすると、他の並列素子に短絡電流が流れ、さらに系全体に波及して全素子を破壊することになるから、大電力誘導加熱には実用的ではなく、従つて、この種装置には冒頭記載のサイリスターをインバータ素子とする大型のものが実施されている。

本発明は上記の点に鑑みインバータ素子として一素子当り小容量のトランジスターを多数並列状に配置すると共に、これら各トランジスターをそれぞれ電力バランサーであるコンデンサーを介して直列に誘導コイルに接続して、本願の所期の的を達成せしめたものである。

以下本発明の実施例を図面に基づき説明

第1図は各整流器10…及び電解コンテ11などの直流変換素子を介して三相交流電源13に接続した直流回路14、15に高周波変換装置、つまりインバータ回路20を組込んだ基本図である。前記の高周波変換装置は直流回路14、15間に形成した並列回路16、17にそれぞれ2個づつのトランジスター1a、2a、1b、2bを介設し、前記各並列回路における両トランジスター間からそれぞれ分岐した出力回路3a、3bをそれぞれコンデンサー4a、4bを介して誘導コイル5の両端に接続したものである。該図においては一側の対称位置にあるトランジスター1a、1bにベース信号を与えられると、次に他側の対称位置にあるトランジスター2a、2bにベース信号が与えられる。このようにパルスベース信号が対称的に与えられると、直流電気はトランジスターをインバータ素子とし且つコンデンサー4a、4bを電力バランサーとして交流電気に変換され誘導コイル5に印加される。殊に高周波の場合、比較的小容量のコンデンサーで電力を通過させることができ、該コンデンサー4a、4bはその充、放電の繰返しによつて安定した電力を誘導コイル5に印加する。

そこで、前記の小容量型の電磁誘導加熱装置をより大容量型に構成するには、第2図に示す如く、第1図に示した直流回路14、15間に多数の高周波変換装置を並列状に接続し、且つそれぞれの各出力回路3a、3b、3c、3d…をブスバーにまとめて誘導コイル5に接続する。そして、コイル5を隔てた両側の対称関係にある各トランジスターによつて同時にインバータ機能を発揮させることによつて、コイル5には高周波変換装置の数量に相当する大電力が印加される。この場合、コンデンサー4a、4b、4c、4d…による電圧降下は電力損失に結びつかないので、トランジスターの順電圧降下に比較して充分大きな電圧降下を持たせることにより、トランジスターの特性にかわりなく、コンデンサー配分によつて電力を配分することができ、第4図のものの抵抗による熱損もなく、しかも、仮りに所定のトランジスター1aが何等かの原因でオフ能力を失しなつても、次の信号によつて2a系列のトランジスターがオンすると、コンデンサー4aによつて連続的な短絡電流は遮断され、トランジスタ2aの破壊のみで全体系列への影響を防止でき、1アームの欠損による連鎖的破壊を生じさせない。しかもコンデンサーを直列接続したことにより、誘導コイル5との共振現象を利用して第3図のような周波数調整による電力制御ができる利点がある。

叙上の如く本発明の電磁誘導加熱装置は、サイリスターをインバータ素子とした高周波変換装置のように転流回路を必要としないので、転流エネルギーが不要な分だけ効率的になり、大電力用の場合は特に全体がコンパクトになり、低格価に提供できる効果がある。

図面の簡単な説明

第1図は本発明の実施例を示す基本図、第2図は同全体図、第3図は本発明の効果を説明するための補助図、第4図は従来例の説明図である。

1a~1h……トランジスター、2a~2h……トランジスター、3a~3h……出力回路、4a~4h……コンデンサー、5……誘導コイル、14、15……直流回路。

第4図

<省略>

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

別紙

先使用に係る物件(A物件)説明書

一、 図面の簡単な説明

第1図は先使用に係る物件(A物件)の斜視図である。

第2図は先使用に係る物件(A物件)の電気回路図である。

二、 先使用に係る物件の説明

1. 構造の説明

先使用に係る物件(A物件)は電磁誘導加熱装置であって、多数のインバータ装置I、I、I、…と、加熱装置Hとから構成されている。

各インバータ装置I、I、I、…のプラス端子、マイナス端子は、図示しない直流変換装置を介して三相交流電源に接続されている。

各インバータ装置I、I、I…は、並設された2枚の小基板P1、P2と、該小基板と対向する大基板P3とによって枠組みされている。

各基板P1、P2、P3は、導電性材料によって形成され、その表面に多数の小トランジスタTrが配設されている。

小基板P1に2列に配設された各々の小トランジスタTrは、そのエミッタが基板P1を介して導通されるとともに、コレクタが裏面の配線によって互いに導通されることにより、並列接続された一つのトランジスタユニット201aを構成している。同様に、他の小基板P2に2列に配設された多数の小トランジスタTrも、トランジスタユニット202bを構成している。

大基板P3に4列に配列された小トランジスタTrのうち、一方側の2列の多数の小トランジスタは並列接続された一つのトランジスタユニット202aを構成し、他方側の2列の多数の小トランジスタは別のトランジスタユニット201bを構成している。トランジスタユニット202aのエミッタとトランジスタユニット201bのエミッタは、基板P3を介して導通、されている。

前記4つのトランジスタユニット201a、201b、202a、および202bにより、インバータ回路が構成されている。

インバータ装置I、I、I、…の出力回路203a、203bは、それぞれコンデンサユニット204a、204bを介して加熱装置Hの誘導加熱コイル205、…、205に接続されている。

前記コンデンサユニット204a、204bは、それぞれ3個直列に接続された小コンデンサ をさらに5列に並列に接続することによって構成されている。

2. 電気回路の説明

(イ)ⅰ 三相交流電源213に、整流器210および電解コンデンサ211を介して直流回路214、215が接続されている。

ⅱ 前記直流回路214、215には、並列回路216a、216c、216e、…、217b、217d、217f、…が多数並列に接続されている。各並列回路には、201aと202a、202bと201b、201cと202c、…、202fと201fというように2ユニットずつトランジスタユニットが介設されている。

前記各並列回路の2つのトランジスタユニットの間から出力回路203a、203b、203c、…、203fが分岐している。

各トランジスタユニット201a、201b、201c、…、201f、および202a、202b、202c、…、202fの各々は、並列に接続された多数の小トランジスタTrから構成されている。各トランジスタユニットの小トランジスタTrの各々は、各ベースに同期した信号が印加されることにより同時に駆動するように構成されている。

トランジスタ201aと201b、202aと202b、および出力回路203a、203bが、一組のインバータ回路を構成している。

同様に他の組のインバータ回路が構成され、これらのインバータ回路により大電力が引き出される。

(ロ)ⅰ 前記各並列回路の出力回路203a、203b、203c、…、203fは、誘導コイル205、…、205に接続されている。

ⅱ 前記各インバータ回路には、それぞれコンデンサユニット204a、204b、204b、…、204fが共振用及びバランサーとして直列に挿入されている。

前記各コンデンサユニット204a、204b、204c、…、204fの各々は、複数の小コンデンサ を直列接続したものをさらに複数並列接続して構成されている。

(ハ) 前記(イ)(ロ)により電磁誘導加熱装置が構成されている。

以上

第1図

<省略>

第2図

<省略>

参考図

<省略>

販売実績表

<省略>

特許公報

<省略>

<省略>

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